The double

cotteの脳内日記

小さな扉の向こう側

「あなたにこれは売れません」

2度目に来店した時にこう言われた

 

顔はこわばり、ひきつりながらも

笑顔をつくらなければと思ったのは何故だろう

と、同時に少し安堵したのは何故だろう

 

「どうして?」

前回、とても打ち解けたように感じた

その店員さんに尋ねた

 

「似合わないもの。ここで売っている洋服全部似合わない。

あなたはここじゃない。」

 

少し迷っている時期だった

なにを着てもしっくりこなかった

あの1,2年は随分と被服に出費もしていた時期だった

それでも見つからない

毎日少しづつ干からびていくような

そんな気持ちになっていた

 

いつまでこんなことしているんだろう

 

そう思って

ここで買い物をしたらしばらく

何も買わずにいようと思いながら

あのお店の扉をくぐったのだった

店構えにくらべ

なんともアンバランスな小さな扉

156㎝の私でさえ、背を丸めないと入れない

 

不思議の国のアリスのような気分になる

 

そうだ

今まで着たことのない色を着てみよう

セミオーダーのワンピース

サーモンピンクがベースの柄物の生地を選んだ

 

そしてその出来上がりを見に

こうして2回目の来店をした

そして冒頭のセリフを投げられたのだ

 

「じゃあ、わたしなにを着ればいいの?」

 

もう迷子状態で泣きたかった

もう明日から、いや今着ているモノすら

脱ぎ捨てたくなる気持ちだった

 

その店員さんは迷わず

あるブランドの名前をあげた

 

「無理!恐れ多いよ。私みたいのが着ちゃいけないと思う」

「ほら、やっぱり意識している。他のブランド名あげてもそんな風に言わないでしょ。例えば・・・シャネルが似合うよって言われたら、どう思います?」

「え?!やだ。好きじゃない。」

「ほら、シャネルなんかあんなに高価なのに、恐れ多いとは言わないじゃないですか。

ずっと意識していたんです。似合います。今からここじゃなくてそのお店に行ってください」

 

ずっと好きだった

袖を通してみたいと思った

けれどお店の中も入れなかった

 

わたしみたいなのが

わたしなんて

わたしなんて

 

 

「着ていいの?着ていいのかな?」

「絶対似合う。もうあれしかないっていうぐらい」

 

そっかぁ

とうとうわたしあのお店に行くんだ

あの洋服を着るんだ

 

ぞわぞわと鳥肌がたった

 

 

「なんか失礼なこというけど…

こうして今少し冷静になってこのお店を見回したらさ、

このお店近々なくなりそうだよね。」

ふと漏れてしまったことば

 

「わたしもそう思います。わたしももう辞めますし。

ここもそう長くもつとは思いません」

 

風の便りにきくと

しばらくしてそのお店は閉店となったそうだ

それより早く、その店員さんも

いなくなってしまった

電話もなにも繋がらくなり、

お店のオーナーさんは困り果てたようだという

噂までは流れたが

それっきりもうなにも耳に届くことはなくなった

 

あの店員さんは

実在したんだろうか

あのお店自体も

実在したんだろうか

 

パラレルワールドの入り口のような

そんな世界にもぐりこんで

すごしたあの時間

 

あれが私の残りの人生を大きく変えた

 

たかが衣類

されど衣類

ひとつのものの付き合い方が

大きく変わった瞬間

 

すべてのモノ、コト、ヒト

付き合い方が

捉え方が

大きく変わる

うねりのはじまりの瞬間だった